【自律神経と健康の基礎知識】認知機能と自律神経|睡眠が脳の健康を支える理由を知る
皆さん、いずれ要介護になるわけで、男性だと70才を過ぎてから、女性の場合はもうちょっと過ぎてから要介護になって、平均的に男性は約9年、女性は約12年間、介護を受けてあの世へ行くということになります。そこまで長く生きていると、もうひとつ心配なことがあります。それが、要介護の原因の第1位、認知症です。
そういうわけで、あなたも私も、皆さん認知症になる確率がうんと高いわけです。自律神経と認知症って何の関係があるの?と思われるかもしれませんが、あるんですよ。

あなたはよく寝ていますか?ぐっすり眠れていますか?
脳の中には、溜まった老廃物があります。我々の脳は、体全体で使うエネルギーの2割以上を使って活動していますので、老廃物もすごく溜まります。その老廃物のひとつに、アルツハイマー型の認知症を引き起こすアミロイドβ(ベータ)という悪いタンパク質があり、それが蓄積します。
脳に溜まった老廃物は、ぐっすり寝ている時に分解されて老廃物処理が起こるわけです。例えば自律神経の機能があまりよくなくて、目が覚めてしまうとか、ぐっすり眠れないとか、あるいは睡眠時間が非常に短いとか、そういう人には、このアミロイドβというタンパク質の蓄積が起こってしまうのです。
最近のアメリカの研究です。実験的に睡眠を急に短くさせてみました。
今は脳を「見える化」することができるので、一日の睡眠を半分以下にした時に、アミロイドβがしっかり脳に蓄積していたというデータがあります。その翌日ぐっすり寝ると、アミロイドβはきれいに分解したとのことです。
また、長期のデータで、毎日睡眠が短い人や睡眠不足気味な人と、よく寝ている人について、同じ年齢で比較したものもあります。そうすると、予想どおり睡眠時間が短い人のほうがアミロイドβの蓄積がすでに起こってきている。
この蓄積が20年ほど経って十二分に脳の細胞にダメージが起こると認知症が発症する、といわれているわけです。
日内(にちない)リズムに合わせて朝の光を浴びて、昼間しっかり動いて交感神経を動かすことで、ゆっくりと夜は副交感神経が働く。だからとても質のよい睡眠が可能になります。そうすることで、アミロイドβをしっかり分解してくれるので、認知症の予防には自律神経が大きく関与しているわけです。

あなたの自律神経は元気にしていますか?
体には、いろいろな時計遺伝子がいっぱいあります。脳が主時計、胃や腸にもありますし、筋肉もすべて時計で動いているので、朝の光と共に目を覚まして脳の時計を起こして、今、朝ですよ、しっかり食事をとって頑張りましょう!という刺激が、交感神経のスイッチとなるわけです。
日中はしっかりと太陽の光を浴びて動くなどして、交感神経は今、仕事をしているということを覚え込み、ああ疲れた、夕方ぐらいから後はリラックスしましょうとなった時には、副交感神経がだんだん私の番ですよ、ということで、日内のリズムがちゃんと周期的に起こるから、自律神経もそれに連動して動いてくれ、質のよい睡眠ができる。それがとりもなおさず、皆さんの認知症の予防に直接つながるということになります。
この記事を書いた人
森谷敏夫
京都大学 名誉教授
株式会社おせっかい倶楽部 代表取締役
1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授。テキサス農工大学では医用電子工学の研究者とともにNASAの共同研究に参加、宇宙飛行士の筋疲労や筋肉や体力 低下の予防に関する研究を行った。
1992年より京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授。2016年3月から京都大学名誉教授。同年4月から中京大学客員教授。
2007年に予防医療の普及推進をめざして立ち上げたNPO法人エビデンスベーストヘルスケア協議会二代目理事長となり、その成果を世の中に広め、具現化していくことを目的として2019年に株式会社おせっかい倶楽部を設立、代表取締役就任。
専門は応用生理学とスポーツ医科学。生活習慣病における運動の重要性を説き有酸素運動を推奨している一方、寝たきり患者や整形外科的に運動ができない人々のための骨格筋電気刺激についても研究を進め、「筋電メディカル®」という新時代のコンセプトを自ら提唱、医学や生活者によるセルフケアの可能性を広げる科学的なアプローチを精力的に行っている。
2024年、「筋電メディカル®」の考え方に基づき、ロコモティブシンドロームやフレイル対策を目標とした新型EMS「筋電メディカル®EMS(MyMed EMS)」を開発。運動生理学に基づき、筋肉がつく過程を、ハードウエア・ソフトウエア両面からの工夫で再現することに成功した。加えて、これまで困難であった体幹部の筋群(インナーマッスル)への刺激手法を開発し、フェムケアにも活用できるEMSとした(特許出願中)。
自律神経活動の研究においても多くの知見があり、自律神経のバランス(交感神経、副交感神経のどちらが優位な状態であるか)に加え、パワー(自律神経の絶対量。老化とともに減少することが知られている)がより重要であることを提言している。この自律神経測定は、通常、心電図解析と同等の精度が必要であるが、2024年、スマートフォンによりほぼ同精度の測定ができる機器の開発に成功した。